ほのぼのプチ童話集 かわいい主人公たちの短い童話集です。ご家族でどうぞ!
川土手のあちこちに、
ピンクと白のコスモスが咲く季節が、やって来ました。
貯水場の壁際にも、白いコスモスが咲いています。
今年も、コスモスの美しさを競い、
ミス・コスモスを決める大会が始まります。
風に乗って『そよ~そよ~!』とその美しい姿を、
揺らしてみせるのです。
今年の大会は特別です。
ススキや泡立ち草たちの観客つきです。
コスモス達は、とても興奮しています。
これ迄、
優勝してきたのは「土手のあちらのピンクさん」でした。
「壁際の白いコスモスのスノーさん」は、
いつも風が足りなくて・・なかなか美しく揺らげず、
毎年最下位でした。
それでもこの大会に参加出来ることを本当に嬉しく思い、
とても幸せでした。
ミス・コンテストに参加できる!
それがコスモスの誇りなのですから。
お空の雲のお日様の合図を、
昨日から待ち構えていた秋の風が、
待ちくたびれてお疲れ気味です。
お日様のお顔をすじ雲が遠慮しながら、
通り抜けた九時前のその時!
ピカーキラっ!と、合図が出てついに大会のスタートです。
秋風がようやく・・サワサワーと吹いてきました。
それぞれが出来る限りの力を尽くし、
朝から夕方まで、大きく優雅に揺れて見せます。
「壁際のスノーさん」も、大きく揺れようとしますが・・
やっぱり、陰なので風が足りません。
皆の三分の一の揺れです。
でも、とても嬉しそうです。
その姿に心を打たれた秋風が、
貯水場の壁を目がけてヒーフー!ヒーフー!
と、がんばるのですが、なかなかスノーさんを
大きく揺らすところまでは、どうしても届きません。
どうしても壁が風の行く手を阻むのでした。
コスモスのスノーさんは秋風に、
「ありがとう~ありがとう~」
を、右に左に揺れるたび伝え続けます。
仲間のコスモス達は、大きく揺れながら、
「スノーさん、がんばって!」
と、エールを送ります。
それを聞いた秋風は、作戦をあれこれ思案します。
そしてお昼頃、
風がピタッと止んでしまいました。
やがて秋風は大空へ向かってヒュウー!
という鋭い音と共に昇り、去って行きました。
コスモス達の大会会場の土手は大騒ぎです。
こんなことはいまだかつてないのですから・・
「まあ、どうしましょう。揺らげないわ~」
「今年の大会は中断かもしれないわね」
と、参加者のコスモス達もがっかりです。
ところが、
午後3時も回り、皆が大会中止の宣言を覚悟していた時です。
ゴーッ!ヒューッ!ソョ~!サワーッ!
という音色を奏でながら秋風が、大勢の風達と戻ってきたのです。
何ということでしょう!
南の国から春風を呼び戻し、帰ろうとしていた夏風を呼び止めて、
北風には寒い国からの出張を依頼したのでした。
コスモスの揺らぎ大会の会場には、
周りの小鳥たちまで驚いて集まり、大変な興奮状態になりました。
その興奮が冷めないうちに、コスモスの美しさを競う揺らぎは再開します。
ピンクも赤も、白も精一杯麗しく揺らごうとします。
でも、風が強すぎてお顔が飛ばされそうになり、
揺らぐどころではなくなってしまいました。
そんな中で、壁際のスノーさんだけは、優雅に美しく揺らいでいました。
壁があるお蔭で、ちょうど良い風加減になっていたのです。
「風さんたち、ありがとう」
と、言いながら幸せいっぱいに揺れました。
でも、仲間の皆の事が心配です。
「大丈夫でしょうか~? がんばって!」
と、今度はスノーさんの方がエールを送ります。
仲間のコスモス達が答えます、
「大丈夫、大丈夫」
「心配しないで、スノーさん」
「観客の皆さんに、コスモスの美しさを
知らせてあげられるように、がんばって!」
この励ましでスノーさんは益々麗しく、夕方まで揺れ続けました。
お日様が山のてっぺんに着地して、大会の終了合図となります。
春風、夏の風、秋風と北風達は、自分の果たした役目に満足して帰ります。
いよいよ、
優勝者であうミス・コスモスを皆で決める時間です。
賑やかな夕暮れの中、推薦の声が上がります。
「土手のあちらのピンクさん」と「こちらのコスモスさん」が
力強い声で言いました。
「今年のミス・コスモスは、壁際のスノーさんだと
思います!」
皆も
「そうね!素晴らしかったもの!」
と、全員一致で決まりました。
スノーさんは
「私は昼頃まで、大きく揺らげなかったわ」
と、言いました。
すると仲間のコスモスが、一斉に言います。
「いいえ、午前中は少しの風という苦しい中で、
幸せそうに揺れている姿がとても美しかったわ~!
そして、午後からは誰よりも大きく優雅に揺れていたのは
スノーさんだけだったのよ!」
と。
「壁際のスノーさん」は、仲間の愛と初優勝が嬉しくて、
幸せのあまり夕闇の中、そっと涙を流しました。
観客のススキや泡立ち草が、葉を揺らして拍手です。
飛び込みの観客になった小鳥達もピーチュクチュク!
と、泣き声で拍手します。
秋の夕暮れ、
貯水場のある川土手一面の小さな世界は、優しいコスモスの香りと平和な仲間。
みんなで幸福な一日を過ごしました。
(by 徳川悠未)